spirit
黒木の森を抜けるとき、無性に山が怖くなる。
樹々たちの桁外れの量感に圧倒され、心の昂りは静まることはない。
霧の深い稜線では、無性に山に怯える。
太古からの無垢な均衡の美に打ちのめされ、ただ風に追い越されるばかり。
畏敬と尊崇の思いといったら聞こえは良いのだろうが、
あらゆる自然物は風化に耐えてただ齢を重ね、山の輪廻と歩幅を合わせていく。
遠い昔に絶たれた命なのだろうか。
遠い夢の中に佇む姿なのだろうか。
一瞬の儚さや美しさを感じる隙を与えない山の原始の叡智に、
必死に、ひたむきに、野生の意志を絞り出さなければならない。
the spirit
「物質の循環展」 hike 2010年
h300 楢