春の妖精
スプリングエフェメラルと呼ばれる、
春の数日間、ごくわずかな時間だけ現れて、
生命を謳歌する春の妖精に会いに行ってきました。
登山口の林道ではツツジ、
山腹を見上げればヤマザクラ、
登山道に入ればタチツボスミレ、ヤマルリソウ、ヒトリシズカ、
ナガバノスミレサイシン。
瑞々しい春の息吹きを感じながら、
春の妖精へと近づいていきます。
樹林帯の芽吹きが鈍くなる標高まで辿り着くと、
妖精の食草である、カンアオイが散見されるようになります。
足元で静かに翅を休める綺麗な蝶。
春の妖精、ギフチョウでした。
スミレの蜜を吸い、
山頂で仲間たちと飛び交い、
地上で翅を伸ばす彼女たち。
絶滅危惧種に指定され生息域が少なくなる中、
近郊ではこの山以外ではいなくなってしまいました。
山頂に咲くヤマザクラも見頃を過ぎ、
わずかに残ったつがいのギフチョウたちも、
よく見ると翅はほころび、
綺麗な容姿を保ったものはいませんでした。
新緑の季節を迎え、樹々の緑の深まりに、
多くの生命が希望を向かわせる中。
静かに、可憐に、素朴に、
そっと翅を広げて生命を目一杯謳歌して、
朽ちていく姿を見せずにすっと消えていく。
彼女たちはこれから、再び長い地中での生活が始まります。
地上に現れた時だけの尺で見れば果敢ないのかもしれませんが、
春という季節をかけがえのないものにするためには、
人間が考えるよりずっと逞しく生きなければならない、
そう彼女たちに教えられているような気がして下山しました。