安達太良の空
智恵子は東京に空が無いといふ。
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間(あいだ)に在るのは、
切っても切れないむかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしはうすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に毎日出ている青い空が、
智恵子のほんとうの空だといふ。
あどけない空の話である。
『高村光太郎 智恵子抄より』
残雪期の安達太良山に登りました。
たおやかな山容のこの山は、標高1,700Mながら森林限界が低く、
山頂までの所要時間が短いため、大変人気のある山です。
終日天候に恵まれ、稜線からの眺めも素晴らしく、
東北の名山をのんびりと楽しむことができました。
陽射しは暖かく緑の芽吹きが薫り、
時折吹く冷たい風が、緩みそうな雪を引き締め、
稜線からは東北の山々とケルン、
下山途中には仲睦まじいカモシカのステップと残照に映える木立ち、
そして、日が暮れてしんと静まり返ったころ、
やさしく包み込むように広がっていたほんとうの空。
とても綺麗でした。