L.
一般的に植物の学名は属名+種小名で表記されていますが、これは二名法といって、
18世紀の博物学者カール・フォン・リンネによって体系化された世界共通の生物の名前です。
表題の『L.』というのは、リンネの名前であるLinnaeusの略です。
植物学の学名においては、その二名の後に命名者を示す表記をします。
これには義務はないそうですので、一般の書物などではほとんど表記されませんが、
学術的な書物や図鑑、論文などでは表記されています。
高名なところでは、ジュシューのJuss.、ジョン・レイのRay.、ツュンベリーのThunb.、
牧野富太郎のMakino.、マキシモビッチのMaxim.などが挙げられますが、
その数多くの名の中で、リンネの『L.』は最も多くその名を残しています。
分類学の父と称されるリンネは、「自然の体系」によって近代的分類学を創始した功績が、
もっとも讃えられていますが、世界中に旅立っていった彼の弟子たちとともに成し遂げようとした、
この神慮に満ちた自然の解明への努力が、彼に最も惹かれたところでした。
そんな偉大な人物であったリンネですが、彼のことを調べていくと、
一方で反リンネ派の博物学者たちから多くの批判を受けていたことを知りました。
それは「性体系」と呼ばれる分類体系が人為分類であり自然分類ではないということと、
自らが新しい種を発見したり、
植物界の本質を解明するような重要な功績を果たしていないという厳しい批判でした。
しかし、ある人の成し遂げた業績というものは、
合理的・実証的な成果の部分だけで計られるものではないと思うのです。
その人が生きた時代の社会と文化から、たくさんの有形無形の影響を受けるのと同時に、
その時代に影響を及ぼした存在でもあるはずです。
リンネの生きた18世紀は、長らく続いた暗い時代から脱して、
人々は皆、緊張や禁欲的な雰囲気から解放されて、
破壊的な暴力よりも建設的なエネルギーに満ちた、
安らかな日常と平和な自然の中に価値を見出そう願った時代でした。
批判というものは次の時代への指針となる必要なものですが、
その人が生きた時代の背景を理解して、非合理的・空想的な側面を含めて、
その人の全人格においてみるように努めるべきだと思います。
あまりにも強力に合理性や実証性を推し進めてしまうと、社会や文化のみならず、
学問までも画一化して硬直化させて、おもしろみがないものになってしまうと思うからです。
これは現在でも変わらない悪い習慣なんですね。
さて、話が脱線してしまいましたが、現在でもリンネは植物学の第一人者であることには変わりはありません。
博物学、植物学の黎明期に生きた彼は、学術的に決してアカデミックではなかったのかもしれません。
むしろ、世俗的であったのかもしれません。
リンネは自然の新しい見方を、僕のような一般の人たちにも理解できるかたちで示してくれたのではないでしょうか。
誰もが愛して学べる学問として、そして神の恩寵に満ちているものとして。
そんなリンネに影響を受けてしまったということで、スペソーのアトリエお披露目展では、
このリンネが命名した植物や生物などを制作したいと思っています。
アトリエの改装は順調とは言えませんが、何とか前進しています。
皆さんにお会い出来るのを楽しみに、少しずつですが制作に入ろうかという今日この頃です。