金属の像刻花

 

 

 

 

Abutilon avicennae イチビ  「物質の循環展」2009

 

 

 

 

 

 

 

僕が金属を使って植物を制作することになったのは、

 

「自然との共生と物質の循環」という作品のコンセプトが根底にあったからではありますが、

 

「金属でどこまでの表現が可能なのだろうか?」という自問自答から始まったことでもあります。

 

 

 

ステンドガラスと鉄の額縁に納められた作品と、鉄のベースから直接生えている立体作品。

 

最初の展示会ではこの2つの形状で作品を発表しました。

 

 

削り取っていく作業と付け足していくという作業の違いはあれど、

 

まず立体作品を木の彫像の延長と捉えて制作を始めました。

 

当初はかなりデフォルメしたフォルムで、薄めのロートアイアンのようなものでした。

 

仕事の延長線上でしかアドリブの効かない発想の固さと未熟な技術。

 

自分の思い描く理想とあまりにもかけ離れた制作物を前にして、

 

途方に暮れつつも約半年間試作を繰り返しました。

 

とにかく、「どこまで出来るのか」だけを考えていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

Polystichum tripteon presl ジュウモンジシダ 「物質の循環展」2009

 

 

 

 

 

 

 

 

Iris hollandica ダッチアイリス 「球根草花展」2010

 

 

 

 

 

 

 

 

Erythronium japonicum カタクリ 「球根草花展」2010

 

 

 

 

 

 

 

植物の作品を制作するにあたり、まずはじめに誰かと同じ手法の作品にしないように、

 

鉄や真鍮などの金属はもちろんのこと、いろいろな素材を含めて植物を制作している作品を、

 

おそらく発表されているものはおおむね調べました。

 

 

 

個人的な見解として植物の細密描写の作品に限れば、

 

現代でその最たるのは須田悦弘さんの木の草花です。

 

残念ながら面識はありませんが僕の大学の先輩で、木を極限まで彫刻して作られています。

 

実際に目にしたのは最近のことで、銀座のギャラリー小柳というところでした。

 

作品の透明感がものすごかったのと、今まで見たことのないほどのしびれるような空間でした。

 

こんなギャラリーが日本にあるんだと感心したのと同時に、

 

作品の完成度と価値の高さに驚愕したのを覚えています。

 

 

 

他にもたくさんの作家さんが植物をモチーフに作品を発表していますが、

 

歴史上最も素晴しい作品は、ハーバード大学の自然史博物館にあるガラスの植物標本『glass flower』だと思います。

 

19世紀後半から20世紀前半までに、植物学者で極めて優れたガラス職人でもある

 

レオポールド・ブラシュカとルドルフ・ブラシュカが制作したそうです。

 

実際に見たことはまだありませんが、画像で見る限り想像の域を超えていることが一目でわかります。

 

ガラスでも突き詰めていけば不可能はなくなるということに感銘を受けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

Lespedeza bicolor、Neozephyrus japonicus ヤマハギとミドリシジミ 「物質の循環展」2010

 

 

 

 

 

 

 

 

Caryopteris divaricata カリガネソウ 「物質の循環展」2010

 

 

 

 

 

 

 

そうして一通り調べたものと自分の出来ることを分析していった結果、

 

鉄を主体とした金属で植物の細密表現をしていく方向性が出てきました。

 

しかし、それだけでは先人のいない領域に踏み込めないので、

 

仕事で習得したエイジングの技法を、さらに踏み込んで用いました。

 

 

 

せっかく出来上がった銀色のメタルな作品を酸化させて汚してしまうことには、

 

おそらくほとんどの方が抵抗があるのではないかと思います。

 

色彩も化学反応による変化を伴いますので、ルーシー・リーのようにレシピをとる必要がありますし、

 

その上見た目は繊細でも制作には相当のパワープレイが必要ですが、

 

出来上がった朽ちた植物は、フェザータッチで触れるだけでポロッと花が落ちてしまいます。

 

 

 

誰もやらないことにはおそらく何らかの理由があるということに気付いた頃、

 

金属の植物作品は完成していました。

 

 

 

 

 

 

 

Dicentra peregrina コマクサ 「物質の循環展」2010

 

 

 

 

 

 

 

 

Fritillaria camschatcensis / Chloranthus japonicus クロユリ、ヒトリシズカ 「物質の循環展」2010

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な面倒の多い工程を消化して立体作品を完成させてみても、

 

またひとつの大きな課題があることに気付きました。

 

この作品はどうやって梱包するかなど、強度のことを考えなくてはなりません。

 

 

 

先述の須田さんやブラシュカ親子からすると、

 

そんなくだらない考えは必要ないと叱責されるかもしれませんが、

 

僕は作家と言う観点から作品を制作していたわけではなく、

 

クライアントに納めるプロダクトと同様に捉えていたので、

 

そういった破損する心配がありそうなものをどう見せるかというところから、

 

ガラスの中に入れて固定するという発想の転換を行い、額縁の作品は生まれました。

 

 

 

それから立体では表現出来ない細密な描写は、額縁の中に納めるようになったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

Camellia japonica ツバキ 「春を謳う花展」2011

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Viola mandshurica スミレ 「春を謳う花展」2011

 

 

 

 

 

 

 

完成度の高い額縁作品を主体に作品を制作するようになって、

 

2011年を最後に立体作品を個展では制作しなくなってしまっていました。

 

 

 

『金属の像刻花』という文字が記されていた「春を謳う花展」のDMを眺めながら、

 

自分が植物を作り始めたときのことを思い出して、少し考えてしまいました。

 

 

 

初めて頂いた来春に納める額縁作品中心の、

 

アートワークプロジェクトのコンセプトを練るつもりが、

 

立体作品への憧憬へと心情が変わっていくのも困ってしまうようでいて、

 

とても大事で自然なことなのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

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