精霊たちの視線の先にあるもの
「海の砂漠化」
僕らが見たことのあるカラフルな色の珊瑚は、海の中に生えている植物のように見えますが、
それは、珊瑚を色鮮やかに見せてくれている、褐虫藻という藻類が付いているからです。
この褐虫藻は植物なので、二酸化炭素を使い光合成をして酸素とエネルギーを生み出します。
この時作り出される栄養分と酸素を珊瑚がもらい、代わりに光合成に必要な二酸化炭素を、
褐虫藻に供給しています。両者はお互いに必要なものを供給し合っている共存関係にあり、
褐虫藻の色素が珊瑚を美しく見せているのです。
珊瑚の白化現象が起こる原因は、褐虫藻が珊瑚からはじき出されてしまう、
周辺の環境が生息できない状態になってしまう、などといったことが原因です。
珊瑚から褐虫藻が追い出されるのは、珊瑚自体に強いストレスが加わると起こる現象です。
温暖化によって海水温度が年々高くなっているため、プランクトンが異常発生し、
周辺海域に十分な光が届かなくなると褐虫藻は光合成を行うことが出来なくなります。
そのため、褐虫藻は、光を求めて共生していた珊瑚を離れ、移動してしまいます。
また、褐虫藻は水温が一定以上になると繁殖・生息できなくなり珊瑚を離れてしまいます。
裸になってしまった珊瑚は酸素・栄養供給源を失うことになり、
軸となる石灰部分だけになっているため白く見えます。
この白化現象が広がってしまった状態が「海の砂漠化」と呼ばれています。
沖縄本島では、僕が学生の頃まではきれいな珊瑚を見られるビーチがいくつかあった記憶があります。
恩納村にある万座やミッションビーチでも残っていたように思います。
今ではすっかり見られなくなってしまって、本島で気軽に見れるところはだいぶ少なくなってしまっています。
温暖化によるプランクトンの異常発生が主な原因だそうですが、大量のサンオイルや、
珊瑚自体を折って持って帰ってしまう人なども原因のひとつだと思っています。
本土の人は不思議がりますが、多くの地元の人がTシャツを着て海に入るのは、
少しでも海を汚さないようにしているからというのもあるんです。
とは言うものの、近年の1998年に起こってしまった、広範囲に渡る珊瑚の白化現象によるダメージが、
一番大きいものだったかもしれません。。。
しかし、現在は状況が改善されつつあると聞いています。
沖縄の人たちだけではなく、本土から来てくれた心あるダイバーや海を愛する人たちのおかげで、
マナーは格段に良くなっていると言われていますし、オニヒトデの駆除や珊瑚の再生への取り組みも、
年々盛んになってきています。心配なのは、赤土流出の原因となるリゾート開発などが
未だに続いていることと、計り知れない原発事故での放射線の流出による影響です。
20数年前に小さかった甥っ子と嫁の父と一緒に、船でケラマに行った時のことをよく思い出します。
あの時に潜った海の美しさは、僕にとっては一生忘れられないものになりました。
今回の展示会で制作した精霊たちも、あの日があったから彫れたのかもしれません。
精霊たちの視線の先にあるものは、たくさんの人たちが、どんなに先の未来になっても、
それぞれに海の美しい想い出を紡いでいっていけるようにという願いだと思います。
海というかけがえのない自然に対して、誰もが本来もっているはずの願いなんだと思います。